平成19年 御劔神社 夏季大祭 友井保存会 中南之町 振り返り


前夜(7月13日)



 雨の降らない六月、空梅雨、水不足が深刻に心配された夏の到来の中、本格的な祭りの準備は進んでいった。御旅所の設置、堤燈吊り、肩合わせ、花代集め、願人の練習、飲み物の買出し、駐禁の貼り出しなど数え切れない場面を積み重ね、私達は本番を待った。

祭り一週間前の天気予報は全て傘マークで埋まっていた。空梅雨のツケが回ってきたような空だった。追い討ちをかけるような台風の到来。祭り当日の雨は確実だった。何があっても祭りをしたいと願う気持ちは強まるばかりだった。

宵宮前日の組上げの日がきた。午後六時小雨の降る中、中南之町の町衆達が大倉邸に集合した。金綱や房など、ふとん太鼓の飾りを木箱に入れ神社前の太鼓小屋に向かった。雨はふとん太鼓の組上げを拒むかのように激しさを増していった。例年行われている神社内での飾り付けは不可能に思えた。携帯の画面を流れるニュースを見ると、台風の速度が落ちているとのことだった。九州と四国の間で停滞していた。このままでは、近畿への接近が明日の夕方になってしまう。その余波を考えると宵宮は絶望的だった。

神社内での飾り付けは中止になり、屋根のある福田工業さんの敷地を使用させていただいて飾り付けが行われることになった。各町のふとん太鼓は、会館下の太鼓小屋で台棒だけを組み上げられ、美園町の福田工業まで押されていった。道すがら降りしきる雨に、もう不安はなかった。「明日はやれる」根拠のない自信があった。到着し、ふとん太鼓の飾り付けが始まった。屋根の飾り付けは、太鼓方の山岸さんに指導していただきどうにか形に仕上げることができた。それぞれが自らの持ち場の役目を果たし、ふとん太鼓は少しずつ装いを整えていった。

一年に一度しか見られない綺麗なその姿に、私達は魅了され「また来年も」という気持ちになる。全ての飾り付けが終わりふとん太鼓にシートがかけられた。御劒神社に布団太鼓を戻したとき、時計は午後十一時を指していた。

宵宮(7月14日)
 一晩降り続いた雨は、一向に止む気配を見せなかった。宵宮の朝は雨だった。「朝になれば雨が上がっていればいい」誰もがそう願い、昨夜は目を閉じたはずだ。法被に袖を通し地下足袋のハゼを止める。玄関を開け深呼吸し御旅所へ向かった。太鼓方責任者の清水さんが先に来られていた。「止まへんかったなぁ」「しゃあないっすねぇ」そんな会話を交わしているうちに、人数が増えていった。野村さんは既にビールの缶を一本空けていた。皆が集まった九時前、清めの酒を戴き神社に向かった。既に全身ずぶ濡れである。今年から新しい宮司さんが御劒神社に入られた。社殿では祝詞があげられ、二日間の祭りの無事を願われた。女子部部長のゆかこが機転を利かしコノミヤの百均でカッパを人数分買ってきてくれた。カッパをきていると、雨を弾くだけでなく体温が奪われない。感謝である。各町のふとん太鼓が順に宮出しされていった。午前中の四町合同の巡行は、ふとん太鼓にシートをかけて行われた。シートの中、太鼓を打つ願人は自らの熱気と外気の遮断により、かなり暑かったことだろう。
 午前の巡行を終え、脇田邸に設置させていただいている御旅所にふとん太鼓を入れた。例年、御旅所で頂く昼食は大倉さんの厚意により、大倉邸横工場の一階を使用させていただいた。台風は徐々に近畿に接近してきていた。
 午後は、花代を頂いた中南之町の家々の前をふとん太鼓が巡行する。子供達をふとん太鼓の欄干の内側に乗せた。雨の中、玄関先まで見物に出てきていただいたおばあちゃん、ありがとうございました。御旅所にふとん太鼓を入れた。夕食も大倉邸横工場一階を使用させていただいた。
 雨は弱まっているように思えた。このままいけるかもしれない、そう思った時、若頭から宵宮の宮入中止が発表された。本部の決定事項とのこと。御旅所から川筋を抜け御劒神社前にふとん太鼓を移動させた。去年はみかちゃんの結婚祝いをみんなでしたことを思い出した。確か去年も小雨が降っていたはず。シートをかけたままのふとん太鼓の前で、昭悟と裕太の獅子舞が、その場を盛り上げた。御劒神社前で中南之町だけでの担ぎ合いをした。「落とすまで担げ!」前若頭のたかっさんの言葉に始まった。前方は青年団、後方は壮年部。今日の宮入はない。御劒神社前を行ったり来たりしながら力一杯担いだ。青年団のまとまりが例年になく良かった。明日の本宮宮入成功を願いながら中南之町ふとん太鼓を担いだ。その夜、御劒神社で御神輿の御霊移しが行われた。

本宮(7月15日)
 台風は夜中のうちに紀伊半島の南側を通過し、東海地方を暴風域に変えていた。若干の風はあるものの大阪の空は明るさを取り戻していた。「今日はやれそうやな」そう思うと、昨日の朝より弾んだ気持ちになった。御旅所には、今日も太鼓方責任者の清水さんが先に到着していた。「今日はいけるんちゃうちゃいますか」そんな言葉も自然に流れていた。九時になり御旅所をふとん太鼓が後にする。午前中はふとん太鼓の巡行であった。シートが外され、トンボの房が揺れる。ふとん太鼓は昨日と違い勇壮な姿をみせる。曳航ロープが繋げられ、子供達が曳く。子供会役員の皆様にご協力いただき、今年の夏祭りも子供達の元気な声を聞くことができた。彼らもまた十数年後、私たちと同じ思いで子供達の声を聴いていることを願う。屋根は野村さんに助けていただいた。屋根は遠くを見なくてはいけない。長年祭りに出ているが今年初めて知った。子供たちには、夜店の金券が配られ、おもちゃのくじ引きが行われた。
 午後からは、太鼓方と女子部を中心としたふとん太鼓巡行と、神輿方を中心とした御神輿渡御が行われる。御神輿の渡御は御劒神社を出発し、新町、中南之町、北之町を渡御し今年の曳き番町である西之町の御旅所へ向かう。宮入までの間、御旅所で鎮座せられる。脇田邸御旅所からふとん太鼓が出発するとき、中南之町の青年団を前にした御神輿がその前を横切った。御神輿は四町の担ぎ手たちにより、全ての町で担がれる。府道ということもあり元気がよかった。鈴は落ちるかの勢いで鳴っていた。御神輿が去った後、ふとん太鼓は順調に巡行していった。休憩ごとに願人が交代する。五月から七月の本番まで、毎週日曜日に願人練習があった。四台のふとん太鼓が太鼓小屋の中でけたたましく鳴り響いていた。今年聴く太鼓の音色は、去年よりも確実に上手くなっていた。
 夕食を皆でいただき、恒例の集合写真を大倉さんに撮っていただく。今年は、本宮のイベントを駅前の新道で行う。中南の出し物は、皆で中南之町の曳き音頭を唄い、ふとん太鼓の前側台棒の上で獅子舞が舞うというものだ。清水さん作成の舞台が用意されていた。頑丈な作りで皆が驚いていた。太陽は沈みはじめ、夏の夕方の気配をみせる。アスファルトに打ち水がされ、その蒸発していく匂いが一層そう感じさせる。ふとん太鼓にバッテリーが取り付けられ提灯が燈る。赤色の布団に掛けられた金の布団締めと金綱が浮かび上がる。灯りの燈ったふとん太鼓は本当に美しい。四町のふとん太鼓の担ぎあいが始まり、新道が熱気に包まれる。天理教前から畠中酒店まで往復した。
 担ぎあいが終わり、四町のふとん太鼓が一列に並ぶ。いよいよイベントが開始される。各町それぞれ特色を出した催しが用意されていた。新道は人で溢れかえり、気温が上がっていくのがわかる。中南之町ふとん太鼓に舞台がかけられ、その上で獅子舞が横たわる。周りを囲む中南の町衆たちの歌い声が響く。「四町揃ったその中で、忘れちゃならぬ中南、俺ら自慢の大太鼓、五瓜に唐花染め抜いた、印半纏紫の、粋に羽織った晴れ姿、中と南の町衆の、思いを込めたこの太鼓、汗と泪の宝物、それじゃ、ここらで呼びましょか、四町揃ったこの前で、中と南の獅子舞を、獅子舞、獅子舞、獅子舞を、獅子舞、獅子舞、獅子舞を、出て来い、目覚めろ、獅子舞よ」昭悟と裕太の獅子舞が見事な舞を舞う。華やかさが加速する。余韻の残る新道を後にし、四町のふとん太鼓は御劒神社前まで最後の巡行を行った。
 宮入開始は午後八時四十分頃から四町青年団若年(小太鼓)・新町女子部(小太鼓)・中南之町(中南之町太鼓台)・北之町女子部(小太鼓)・新町(新町太鼓台)・西之町女子部(小太鼓)・北之町(北之町太鼓台)・中南之町女子部(小太鼓)・西之町(西之町太鼓台)の順に行われる。宮入までの時間を利用して、神社前で担ぎあい行われる。担ぎあいは音頭で行われた。自分の肩の場所を確認し担い棒に肩を合わせる。ヨイトから肩へ太鼓の音に合わせ、ふとん太鼓が担ぎあげられる。御劒神社の前をふとん太鼓が往復する。昨日と違いギャラリーもかなりの数だ。小さな町の小さな神社の夏祭りとは思えない。御劒神社の境内や周辺の道には人が溢れかえっていた。ふとん太鼓を梶が先導し、押さえ、引っ張る。担ぎ手の足並みも揃っていた。担ぎあいが終了し、各町のふとん太鼓は宮入を待った。
 いよいよ祭りのメイン、本宮の宮入である。誰もが体に力が入る。この祭りに参加している子供からご年配の方まで、全ての意識が集中される。太鼓方責任者の清水さんから担ぎの説明が入る。屋根から見る初めての景色は、静かな空間に思えた。わずか四メートル下の喧騒が違う世界に感じられた。青年団団長のマー坊から、宮入に向けて最後の気合が入る。声は掠れ、その想いだけが皆に届く。町取、副町取が前後に乗られ、小田原堤燈があげられる。早太鼓が打ち鳴らされ、ヨイトから肩へふとん太鼓が地面を離れる。「今年最後の担ぎになる」「中南はどこよりも綺麗に担ぐ」そんな想いが男たちを奮い立たせる。中南之町女子部が煽る。緩やかに力強く鳥居前まで進む。ギャラリーを防犯の方々が守る。花道は今、完璧に仕上がった。鳥居をくぐり境内に入る。太鼓の音が次第に早められ、大房の赤が見え隠れする。しゃくりが強すぎて屋根は普通に立っていられない状態である。太鼓の合図とともにふとん太鼓は差し上げられた。その瞬間、クラッカーは鳴り、ジェット風船が飛ばされる。屋根からくもの巣を広げる。ふとん太鼓が空に一番近づいた最高に美しい瞬間である。歓声があがり、宮入の興奮は最高潮に達する。町取の挨拶が終わり三本締めが行われた。その後、各町の宮入が順に行われた。全ての宮入が終了した。今年曳き番町の西之町から、曳き番町の幟が中南之町町取に引き渡された。今年の祭りは終わった。
 明日から来年の祭りに向けて準備が始まる。この二日間のために、男達は動き、女達は支えた。地図にはない町の名「中南之町」。この町に生きこの町を誇りに思う町衆の、心の拠り所が祭りであり、掛替えのない宝物がふとん太鼓である。


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